明治・大正期の出版と製本

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明治・大正期の出版本は、現代の装丁とは違った趣きのある装丁で魅力的なものが多くあります。ただ、写真などで見るだけで現物を手にする機会はなかなかありません。
過日、明治38年に刊行された「吾輩ハ猫デアル」(上編)の修理を受けることになりました。「吾輩ハ猫デアル」(大蔵書店・服部書店)は、版画家であり装丁家の橋口五葉による装丁で、製本は、手かがり、天金、二方アンカット、角背仕立てです。表紙は薄手のボール紙を使ったハードカバーですが、修理本は背表紙が文字部分をわずかに残して欠損していました。
当時の出版製本はほとんどが手作業によるものでした。綴じは、本かがり(主に抜き綴じ)のほかに、平綴じ(三つ目綴じ)、打ち抜き綴じ(ブッコ抜き)などがあり、丸背の本もこれらの綴じをもとに仕立てられています。この頃の手製本の技術を今でも実践している人はあまり多くはないようです。
修理は、背の支持体の麻を二ヶ所(中央に捨て穴)入れた本かがりで綴じ直しをしました。ここまでは順調に進んだのですが、その後背表紙をどう取り付けるかで作業が止まってしまいました。ただ取り付けるだけなら難しくはないのですが、原本により近い形での修理を考えたからです。
工房に「明治期製本術の再現および技術習得」の勉強に来ている大学教授の方がいます。お話ししたところ、復刻本「吾輩ハ猫デアル」((株)ほるぷ)をお持ちとのことでお借りして作りを見てみました。表紙に、ハードカバーにあるべき「溝」がなかったのは薄手のボール紙を使った折り込み表紙(?)だったからでした。修理は無事完了です。
(2018年10月)*写真は復刻本(左)と修理

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